ロマン・ロランと生きる

フランスの作家ロマン・ロラン(1866~1944)に関する情報を発信するブログです。戦中・戦後の混乱期に幼年時代を過ごした人々の間では、ロランは必読書だったそうです。人生の師と仰ぐ人も少なくありません。現代の若者にはあまり読まれていないようですが、ロランと同じ精神の家系に属している人は少なからずいるはず。本ブログがロランの精神的兄弟たちを結び付ける場になれば幸いです。

ロマン・ロラン自筆書簡【14】サン=プリ家⑥


政治との距離感

私の戦いは芸術の中にあるのです


フランスの作家ロマン・ロランの自筆書簡である。1921年7月29日付。1919年に没した愛弟子ジャン・ド・サン=プリの弟、ピエール・ド・サン=プリに宛てたもの。

【意訳】
妹からあなたのお手紙を受け取りました。
Gouttenoire de Toury 氏の件については、どうかご容赦ください。
私には政治史の本に序文を寄せる資格はないように思います(中略)
もちろん興味はありますが、それに耽る権利はありません。
本来の務めに支障をきたすことになるでしょうから。
私の戦いは芸術の中にあるのです。
さしあたり、新しい作品にどっぷり浸かっています。
これから解放されないとしても、
お許しいただけますように(後略)。

政治が人びとの暮らし、もっといえば生命そのものに大きな影響を及ぼすものである以上、ロランも政治に無関心ではいられなかった。第一次世界大戦中の1918年、ロランは友人に宛てて次のように書いている。

「もしも私がまだサン=プリの年齢だったら、
私の義務は異なっていたでしょう。
私は青年のもっとも優秀な者たちが、
政治と行動に関心をもたないことを残念に思いつづけております」
みすず書房ロマン・ロラン全集【36】』所収
「どこから見ても美しい顔」宮本正清訳 P150)

第一次世界大戦を機にロランは政治的な評論を数多く書くようになるが、特定の派閥に与することはなかった。あらゆる政治的党派から独立し、常に人類全体の視点、すなわち「人間」という立脚点から発言したところに特色がある。

「イリュージョンよりも、真理よりも人間を愛さなければならない」
みすず書房ロマン・ロラン全集【5】』所収
クレランボー」宮本正清訳 P444)

この手紙で言及している「新しい作品」とは、長編小説『魅せられたる魂』のことだと思われる。同年10月に第1巻を脱稿した。

ロランは翌年4月、スイス・レマン湖畔のヴィルヌーヴに移り住み、そこにガンジータゴールなど世界からの来客を迎えることになる。第一次世界大戦の深い悲しみと、新たな戦争の不吉な予感を抱えながらも、戦間期は比較的穏やかな、充実した時期だったといえるかもしれない。